コミュニケーション・ブレイカー《導かれしコミュ障ども――友達0人からの脱却編》

「では紫苑さん、この問題の答えはなんでしょうか?」

 

「......ハイッ、 tan2 θ=(2/3)です」

 

へー、咲耶姫に入学してるだけあって紫苑さんは頭もイイのかー、結構難しい問題だったんだけど。

 

スタイルがいい、おっぱいが大きい、リーダーシップがある、流行を捉えている、頭脳明晰、運動神経にも優れている、柔軟な会話力。ナニコレ? ぼくがかんがえたしゅじんこうみたいな性能してる。

 

キョドらないで対話してるってだけでも、私は羨ましいと思っているのにハイスペック機器満載の最新鋭パソコンって感じ。私は30年位前の起動に20分くらいかかるジャンク。バージョンアップなんてされてません。

 

あ、私も一度名指しされて答えは分かってたんだけど

 

「ウヴォヒュッwwwのににじょーかけゆwにじょーれふはらっwこたえはひゃくはちじゅブッwwwww」

 

あ、また死ぬ、死なせて、同じJKなのにこの差はなんなんだ。頭だけは私のがイイ筈なんだぞ!!!!!!1 会話出来ないってだけで無に還ってるよ!

 

私から見れば「他人とのやり取りがマトモに出来る」ってだけで産まれた時から勝ち組だよ。お母さんは取り込む細胞を間違っちゃったから、私みたいな内弁慶コミュ障が這い出てきちゃったんだろうなぁ。親のせいにするのはあまりにも不謹慎だけども、そう思うことで今まで16年間乗り切ってます。クソだなぁ私...

 

「では次の問題を.......氷獄さ」

 

「...鎮まるがいい、俗世の傀儡如きが!......いや――ウェスタロス(灼熱と氷河吹き荒れし永久奈落)――のクリエイター(創造と破壊の至高神)――である我様に語りかける――(ジョーカーズ・コール――禁忌に反逆セシ希望求ム祈り歌か――)とはまさか...№13、幻魔郷からのファルティ・アヴェンシアス(神を葬り射し鐘を鳴らす使い手)である...か...!」

 

アベン...ベン? よく舌噛まないな~(白目)

オーオーオー、なァに一人で納得してんだよコイツ...中二絶好調ッスね。

一昨日に名指しされた時は「我様に語りかけてくるとは何者なのだっ!?」とか驚いていたくせに、もう設定変わっているのかも知れない。何者って、教師だよ。

 

私も能力者がいっぱい出るバトルファンジー漫画見てるけどさ、真似したいだなんて思った事は無い。真似できないから漫画なんだよっ!? メギドの馬鹿は盛大に滑ってる事に気がついてないし、新技? の詠唱をビッチリノートに書き綴っていたから答えなんて分かりっこない。マトモに勉強している...というか中二言動ではないコイツを見たことが無い。本気でクリエイターとでも思っているのか...大人になって同窓会とかで「メギドちゃん昔はさ~」て、話のネタにされるのはよくあるエピソードだけどはコイツ直りそうも無いし呼ばれそうもない。まぁ私も同窓会なんて呼ばれないんだろーけど...招待されたって今のままじゃ一言も喋れないし。

 

一瞬にして時が止まる教室内。

やったじゃんメギド、あんた炎と氷を操る力は無いけど時を停止させる力あるよ。ついでに敵対心を向けられない固有能力(関わりたくないから)も備わってるよ...紫苑さんとの対比感を自分から曝け出してくれたから、ますますメギドの評価は下がっていくだろう。既にコキュートス...おっと、私にも中二が伝染しちゃった系か? 席近いし...こわっ。

 

「ダーガリエン(怒レル饗宴)の刻...争いなど不要...そう誓ったばかりであろう...プロメテウス(豪魔焔ノ憑依)とスカディ(壊冬ノ契約)よ...貴様らを抑えるだけで我様がどれだけ魔力を注いでいるのかっ...グッ、ウグッ...! ゥァァァッ!! カテドラール――砕かれし星々の再生論――が再びィ!?」

 

要約すると「私、体育苦手なんで出たくないです」ってトコでしょう。何言ってるかちっとも分からないのに、微妙に伝わってくる辺り人間味を捨ててはないらしい。

 

体育は良い、会話しなくたってガンガン物語を進めるから。

スポーツだって私は得意なんだよ! ま、「今のシュート凄かったね!」と褒められても「しゅへっwwwんなこほォwwわぁありまへひっwww」って返しちゃったから、友達になる機会を殺したんだけどね、死にたい。

 

「春萌さん! パスッ!」

 

「!!?」

 

新入生で一番リア充してる紫苑さんが! 私に話しかけてくれたっ!

違うって分かってるよ本当は、バスケでパスしたいからその合図ってだけなのは。

でもっ...友達なんて――部屋に置いてある修学旅行で買ったマリモ――だけな私にお声掛かった事実が嬉しくって...

 

「........ドゥルルルッwww」

 

「わぁっ、すご~い春萌さんスリーポイントシュート~! 私らのチームの勝ちだよ~!」

 

「ふィひwwwありがとごぜぇますwww」

 

んっ...? 他の人が話しかけて来た時よりも少しスムーズに会話出来ている...?

私にとっては今のでもマシな部類なんですよ! 理由は分からないけどまぁいっか! これを機会に紫苑さんとお友達...

 

「紫苑ちゃ~~ん! 格好良かったぁ! 私達にもバスケ教えて~!」

 

「胸揺れるのイヤだからサボりたかったけどぉ、紫苑ちゃんのプレー見てたら私も動きたくなってきたぁ!」

 

あっ、ダメ、取り巻きじゃないけど『紫苑さんのお友達』に囲まれちゃった。

追い出されたとか虐められてる訳じゃないけどさ、もう私が介入する間は無いって感じ。チャンスも救いもドコにもねぇな!

 

こんなコミュ障な私だけども、男子の視線をかなり集めていたのは気がついてる。体操服のネームが歪んでるし疾走すればそれだけ重力に逆らって胸があらぬ方向へ移動し、そして戻る。年頃の男子よ、それくらいのエロ目線は許してあげよう(本当は少しでも注目されてアヘ顔になるくらい嬉しかったから)

 

「紫苑さんのおっぱい! Fくらいあるのかな...高校一年でFってヤベェ!」

 

「刹華ちゃんもかなりの大きさじゃね!? あれはEだなっ! 全然話したこと無いけど身体と顔だけはいい子だよなぁ~!」

 

「あの中二...じゃなくてメギドって子がデカさでは一番だけどな! 絶対にアレはGカップだろっ! ロリ巨乳たまんねぇ! あの性格じゃなけりゃなぁ...」

 

くっ、顔と身体 "だけ"  イイってのは当たっているのが悔しい。つーか見るのは許すけど大声で語ってんじゃねぇよ! 帰ったらシコシコするのかな? 私だって性少年達にオカズを提供するくらいは出来るんだぁ...びみょ~~! 友達になってくれたらいくらでもシコっていいからさぁ! この際性別はなんでもいいやっ!

 

「..........................」

 

話しかけられるのを待ってたけど、結局誰も来ない。

後ろでは中二馬鹿がアリンコ突っついて遊んでるし、私を評価してた男子は速攻で昼食食べてるシィ~~!? 告白される様に校庭のド真ん中で立ち尽くしてた私って一体...クソッ、やはり友達なんていらないんだっ! いなくったって生きてけるって私が証明――

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「友達ホシイヨー...ホシイヨー...エーン...」

 

放課後は誰かと一緒に帰ったり、そのまま遊びに行ったり、もしくは部活に励んだり、バイト先で出逢いと活動資金そして社会勉強を...

 

私はどれもない。友達ホシイ、ホシイと嘆きながら(勿論道行く人達に引かれながら)隅田川テラス沿いまで彷徨い、手すりに寄っかかりながら川へ向かって石を投げている薄汚れたJKだ。まだ入学してから一ヶ月しか経過してないのに、もう卒業までのチャートは決まった様な物だ。悪い意味で。

 

(せめて同類を見つけたら違うと思うんだけどなぁ...私以外にもきっとコミュ障居るハズなんだよぉ...)

 

私と同じ悩みを抱いた子、誰か一人くらいは存在してもいいよね?

フッ...と思い浮かんだのが例の中二オッドアイロリ巨乳マント馬鹿だったけど、アイツは友達よりも詠唱セリフ考えたりポージングの種類を増やす方向に全力投球してるからなぁ。わかり合えることは無い――――

 

「はぁ...やぁと逃げ切れた...人と接するの苦手なのに放課後まで拘束されるのは生き地獄だよ...一言ずつ頭の中で吟味して体力を総動員させてるからお腹空く...」

 

「はぁ...またやってしまいましたよぉ...先生にすらあんなセリフ...うぅ、でもあの状態に突入させないとボクは誰とも会話できないし...」

 

んっ、んん? 

 

真横に紫髪と銀髪の...私と同じ高校の制服ーーー!? 

独り言呟いてる、こわっ...としか思ってなかったけどアレって...リア充達と放課後ハッスルに出かけたハズの紫苑さん!

 

もう一人はあの...メギドじゃん!? なんか全然性格違うし...つーか『ボク』ってお前...ボクっ娘キャラだったのかよぉぉーー! 我様ってほざいてるから知らんかった...また属性が増えてどんだけ詰めてんだよと。

 

「はわっ!? 刹華さんっ! き、聞かれてしまいましたぁ、ボクの悩み...はわぁぁ! 左には紫苑さんまでぇ!」

 

「あああっ! 春萌さんと氷獄さん!? ごめんなさい気がつかなかった...あ、バレちゃった...かな? 本当の私の声聴かれちゃったかぁ...」

 

なんだメギドの奴、今なら棒で突っつけばアリンコみたいに潰れそう。あんだけ授業中に高笑いしながら《瞬焔凍閻覇神砲――トロデッカ・エホバ・カンターレ・バースト》

とか言いながら不発させて、妨害したあげく「魔力を盗まれた!」の一言で済ませてそのまま居眠りしてた馬鹿とは思えない弱々しさ。加虐的なナニかをそそられる...そのツインテール引っ張って手すりに結びつけてやりたい。