「出演」
・あなた
ヴィヴィのおや、最近忙しいらしい。少しずつヴィヴィとの信頼を築き上げてきた。
・ヴィヴィ
メタグロスの少女。外見は14歳くらい、クールに振る舞うが意外と崩れやすい、最近は素直に自己表現する事が増えてきた。
今日はメタグロスの少女、ヴィヴィと初めてデートをする日だ。
緊張で中々寝付けず、大事な日は何時もこうだ、急いで待ち合わせ場所に向かっている。
…………集合時間は11時、実は余裕で間に合うのだが、最低1時間前には到着しておきたかったので、彼からすれば30分の遅刻。
「あっ…………!? マスター、随分とお早いんですね…………?」
10時30分、キンセツシティの中央、時計塔の下に彼女は居た。
見慣れたブレザー制服、スカートの丈は相変わらず非常識に短く、ツインテールが揺れれば、スカートも同調するから気が気でない。
「わたしの方が早い、ですか…………ええ、1時間前には到着しておりました…………絶対に遅刻したくないので…………遅くなるよりはいいかな、と…………」
どうやら彼女も、あなたと似た考えだったらしい。
ヴィヴィも緊張するんだね、何処か安堵しながら近づいて、彼女の目線に合わせるために、背を屈ませる。
成人男性の平均と、142㎝っぽっちのミニマムな頭身、とっても強い彼女は、とっても小さく、脆い物がある。
「わたしを何だと思っているのですか? …………デート、なのですから…………当然、ですっ、異性と、マスターと…………なのですから…………ドキドキ、しちゃいますよっ…………もうっ」
可愛い、声に出さずとも表情は隠せない、ヴィヴィにはニヤつき顔を「またエッチな事を考えているのですか?」と、照れ隠しの指摘をされてしまう。
「んっ、少し予定よりも早いですけど…………行きましょう?」
毛先をくるくる、銀色のグラデーションを弄って、羞恥心を鎮めようとしていたヴィヴィが、あなたの2/3程度の面積しかない左手を、差し出してくる。
キュッ、と軽く覆うようにして握る、手の甲が少し汗ばんでいる…………
「あっ、申し訳ありませんっ、汗…………滅多にかかないんですけど…………」
いいんだよ、あなたはタオルを胸ポケットから取り出し、拭ってあげた。
ヴィヴィは小声で「どうもです」と言いながら、ツインテールが同時にペコッ、会釈した後の表情は、赤みこそ取れていないが、無表情と打って変わった笑顔だった。
※※※
「マスター、こっちですよ」
まずはヴィヴィの提案からスタート。
お互いのプランを交互に実施するらしい、初心者同士にしては難易度の高いデート法だ。
「えっと、ここです…………マスター、本屋に行きたいと仰っていたので…………」
ガチガチに固まった2人は、歩行もぎこちなく、目的地の本屋まで時間が掛かってしまった。
…………ヴィヴィは「マスターと一緒にいっぱい歩けました♪」と、はにかんでは、背を向けて顔を見られぬように隠してしまったが、あなたは嬉しい限り、キューーンとしている。
「ホウエン地方で一番大きな本屋です、きっとお目当ての本はありますよ」
ヴィヴィもわりと読書が好きなので、一石二鳥なのかもしれない。
「どんな内容の本を探しているのですか?」
トテトテ、先導するあなたの後ろを、素直に着いてくるヴィヴィ。
しっかりと手は握ってくる、はぐれるような場所ではないが、あなたの手のひらにすっぽり、閉じ込められるのを望んでいる。
「…………まさかっ、エッチな本じゃないですよね?」
ジト眼で疑念を投げかけてくる、あなたはすぐに「ヴィヴィ以上に魅力な子は居ないよ」と返答する。
「…………っ! そうですかっ、ふふっ…………♪ もっと、褒めてくださっても…………いいんですよっ…………?」
不意を突かれたヴィヴィは、口ごもってしまう。すぐに機嫌をよくして、普段は決して表せない、甘えたセリフでオネダリしてくる。ヴィヴィも内心テンションが上がっている。
「そうでした、店内でしたね…………後でお願いしますね♪」
店内だと忘れていたらしい、自重しなければと唇を隠し、あなたに予約をしてきた。
立ちくらみを起こしそうな可愛さ、今すぐ抱きしめたいが留まり、目的であった書籍を手に取った。
「いえっ、お礼なんて…………デートは相手の事をいっぱい考えて、行動して楽しむ物だと伺いましたので…………マスターはちょこっと話題にしただけですが、わたしは覚えてましたよ? デートコースにしたら喜んで貰えるかなって…………んっ、あっ、ありがとうございます…………っ!」
周りを確認してから、ヴィヴィの頭頂部を撫でてあげた。
「~~~~~♪ あのですねっ、わたしが欲しい本なんですけど…………コレッ、です」
今日のヴィヴィは非常に甘えん坊、あなたの手を頬まで誘導させてから、スリスリしてとオネダリ。
思いっきり甘えさせてあげたい、あなたはそう決意しながら、ヴィヴィが手に取った本の表紙を見る。
ここは…………料理コーナーだ。
「…………レシピ通りに作っても、美味しそうな見た目にならない不具合…………解消させたいので…………」
でも味は美味しいよ? フォローではなく純な感想、でもヴィヴィは「マスターに見た目も味も、今よりいい物を食べて貰いたいんです」と、流石に恥ずかしくなったのか、本で顔をガードしてしまう。
「…………朝ご飯、ですか? いいですよ、少々焦げてしまっても文句言わないでくださいね…………♪」
あなたはヴィヴィの手料理をベタ褒めする。早くも朝食が楽しみになってきた。
※※※
正午を少し回った。キンセツシティのフードコート。
「チーズドッグが沢山…………! 宝の山ですね、いえ、宝石箱ですね!」
宝石のように綺麗な紅い瞳をしている、キザなセリフをポンポン飛び出せてしまえるあなた。
「お昼ご飯にしていいんですか? …………んっ♪ やった♪ えっ、マスターは朝ご飯抜いてきたんですか? …………ちゃんと食べないとダメ、ですよっ、ではっ…………一緒に食べましょう…………違う物を食べさせ合えばお得、ですっ…………」
チーズドッグだけは別腹のヴィヴィ。専門店が群れを成す。360度全てに大好物、チーズドッグを前にすれば、ヴィヴィはちょっと子供っぽくなる。
「マスターと一緒に食べるチーズドッグは、特に美味しいのです」
眼鏡を直しながら、言ってやったぞ! …………とでも表すように、腰に手を当てながらドヤ顔する。
眼鏡のヴィヴィも可愛いね、より理知的な感じがしてさ、あなたは思うがままに感想を述べた。
「ちょっ…………今言うのですか…………?」
違和感が無くて、それか見とれちゃっていたかもしれないから。あなたの言葉にヴィヴィはタジタジ。
「ふふっ、ありがとうございます♪ マスター、濃厚チェダーチーズ味です、胡椒が利いて美味しい…………です!」
ヴィヴィは両手にそれぞれ、別種類のチーズドッグを握っている。本当にチーズドッグが好きなのだが、やっぱりあなたが見てきた中でも、一番嬉しそうだ。
「はぁむ…………むむっーー! まふひゃーのもおいひひへふよっ! もむもむもむんっ!」
若い男女の仲睦まじい光景、控えめな動作で咀嚼するあなた、対照的に鼻の頭にチーズが付いても気がつかないヴィヴィ。
周りのカップルが嫉妬するくらい、お似合いの2人だ。
「んっ…………す、すみません…………女性にあるまじき勢いで…………(拭いて貰っちゃいました…………♪)」
恥じるヴィヴィだが、相変わらずチーズドッグは手放さない。
「んっ~~~~♪ まふひゃー♪」
チーズドッグの中身は、とても伸びるチーズが入っている。
棒から抜き取ったヴィヴィが、先端を加えながらあなたを見つめてくる。
…………これは恥ずかしい、だけどヴィヴィは勇気を出してのアプローチ、応えてあげるが世の情け。
「んっ、みゅっ…………んもっ、ぐ…………もぐっ、ちゅるっ…………♪ マスターと、ずっとしたかった事…………出来ちゃいました♪」
恋する乙女っぷりの凄まじいヴィヴィ、毛先を軽く手櫛しながら「人がいっぱい居るのに大胆だね」と言えば、忘れてしまっていたのか、ヴィヴィはテーブルに顔を突っ伏してしまう。
「あうっ…………もうここには来れません…………」
ヴィヴィはそう言うが、真紅の瞳は何を示しているのか分かっている。
マスターとなら毎日だって行きたいです…………だ。
※※※
チーズドッグでお腹いっぱい、食休みを終えてヴィヴィが提案した、第二のスポットに移動した。
「どうでしょうか、マスター?」
洋服屋だが、制服や各種の嗜好に応えられるジャンルの、所謂コスプレを専門とするお店であった…………
「マスターは仰ってました、色々なわたしを見たいと…………セーラー服にタイツです…………何か、感想をくださると安心するのですが…………」
ヴィヴィからこのようなお店に連れ込むとは、かなり意外である。
ブレザーなヴィヴィも可愛いけれど、レトロな風情に身を包み、下半身の肌色を消した姿、まぁミニスカートなのか変わらないが。
「ありがとうございます…………♪ いいですよ? 色々なわたしを見て貰いますので…………♪」
軽やかに試着室に入っていくヴィヴィ。とても気をよくしている。
「メイドさんです…………萌え萌え、きゅ~~~ん、ですっ……………………今のはナシでお願いします…………はうぅっ!」
男の憧れであるメイド服、フリルをたっぷりあしらった、水色チェックのエプロン、頭頂部には白いヘッドドレスを乗せて、これでもかとリボンを付けたオーバーニーソックス。
「……………………何か言ってください、わたしには似合いませんか? ……………………」
きゅ~~~んされてしまったあなたは、鼻血を堪えながら「萌え殺された」と、ちっちゃなメイドさんを後ろから抱きしめた。
「やっ、んっ…………♪ わたしだって、マスターの為にこういう服を着たくなったのですよ? マスターはわたしを変えすぎですっ…………♪ 責任を取ってください♪」
彼女もそっと、抱きしめ返してくれた。
…………とくんとくんっ、コアの脈動が激しい、丁度接触している肘から、あなたの元へ流れ込む。
「マスターだって、動悸が暴れてますよっ…………そんなに似合ってますか? …………そ、ですか…………♪ 致し方ないです」
今のヴィヴィなら、何だって笑って許してくれそうだ。
「次は…………スクール水着、旧式という種類だそうで…………」
メイドはまだしも、そんな物まで揃っているとは。
彼女に誘われるがまま、名札に「う゛ぃう゛ぃ」と書いてしまったが、商品だと忘れていたあなた。
…………購入してしまった、ヴィヴィも「何時着ればいいのだろう」と真剣に悩んでいるが、それはあなたにとっても同じである。
「…………お風呂、とか、でしょうか? ……………………あぁ、わたしったら…………なんて発想を…………」
…………満更でもないのかもしれない。ヴィヴィとは学生時代から会いたかった、少し遅めの青春はこれから堪能すればいい。
「そうなのですか、普通のお店にスクール水着は売ってないんですね…………」
今着ている巫女服も普通は売っていない、コスプレ鑑賞会を楽しんだ。
着用した洋服を、全て購入したヴィヴィが「何時でもお見せ出来ますよ♪」なんて、言うのだから第二回に期待がかかる。
違った自分を沢山見せる事が出来て、自身も新鮮な気持ちになったが、マスターであるあなたが喜んでくれる、それがヴィヴィにとって一番だから、少しくらい恥ずかしくても…………である。…………特にメイド服はデザインがよく、露出多めだがヴィヴィも気に入ってくれたらしい。
※※※
「時計…………です、過去は刻まない、今(現在)だけを刻んでます」
世界から集めた時計を展覧させた博物館、キンセツの南に数ヶ月前にオープンした話題のスポットだ。
「これは高そうですね、こっちは木製で、レンガみたいなのも、秒針がノズパスになっている物まで…………あっ! メタグロス、わたしを模した腕時計……………………」
ブレザーと同じ、青銅色のマニキュアを付けた手を握りながら、小走りでケースを覗いていくヴィヴィ。
本気で走られたら、あなたは引きずられてしまう、小さいのに遥かに強いパワー、ポケモンの少女も、今だけはあなたよりもずっとか弱い。…………なので、離してはダメだ。
「2つの針、十字模様です、蒼の光沢とシルバーのラインで、へぇ、確認されている全てのポケモンの、時計があるんですね…………凄いっ」
予想よりも種類が豊富で、まるで姉妹のような視線になって、メタグロスをイメージした腕時計を直視中…………
スタッフの1人が親切に、あの種類は売り物として取りそろえておりますと、教えてくれた。それだけ欲しがっているように映ったのだろう。
「すっ、すみません…………あのカウンターですね、…………ありましたっ! あと2つしか残っていませんっ、ギリギリセーフ、ですっ…………あのっ、マスター…………いっしょに…………えっと…………付けていただければなぁと…………」
忙しなく眼鏡を動かす、ヴィヴィが何を伝えたいのか…………耳にかかる髪を撫でながら、あなたは2つ分のお金をスマートに支払う。
「ええっ!? お金まではいいですのに…………」
好きな子にはプレゼントしたくなっちゃう、ハッキリとあなたは言う。
…………カウンターの前だから、店員が七福神をも越えた破顔一笑を向けている…………
「…………ありがとう、ございますっ! お揃い…………マスターと一緒♪ ふふっ…………♪」
ヴィヴィは左腕、あなたは右腕に腕時計を巻く。
あなたと〝何かを〟する事が大好きなヴィヴィは、例え安物をプレゼントされたって、ツインテールを左右にパタパタさせながら、喜んでくれるが…………今回は別格なようだ。
「大事にします、皆にからかわれちゃうかもしれませんけど…………いいです♪ マスターとお揃いですって、自慢しちゃうかもしれないです!」
眺めている方が恥ずかしくなってきている、腕時計を巻いた手と手を繋いで、次のデートスポットに向かうあなたとヴィヴィ。
「……………………少しだけっ、えいっ! ふにゃっ…………マスター、大好きですよっ♪」
本当は腕時計を購入してから、すぐに抱きつきたかった。
エレベーター内、たったの10秒程度だが二人きりの空間…………
腕に抱きついてきた少女は、怪力無双なんかではない。鋼にしてはあまりにも軽い、撫で方の入力を間違えてしまえば、何処かが折れてしまいそうで。
「んんーーっ♪ 二人きりの時だけ、ですからねっ…………!」
※※※
夕食は少しアダルトな雰囲気のする、レストランだった。
ワイングラス(中身はジュース)を傾けて、コース料理を堪能しながら、ヴィヴィが笑ったり、微妙な顔になったり、少しだけ唇を尖らせたり、でも最後には笑顔に戻ってくれた。
「楽しかったり幸せだったり…………早く終わってしまうんですね…………まだまだ、全然…………マスターと…………デート…………し足りないのに…………っ」
キンセツシティの南口、夜の110番道路は、サイクリングロードに降り注ぐ形に、星々が並んでいるように思える景色だ。
「嫌、マスターとデート…………終わるの嫌、ですっ!」
夕食を済ませて、静かな場所まで歩いた2人、勿論両手を繋ぎながらだ。
よい子は帰る時間になってしまった…………楽しい時間も、何時かは絶対に終わってしまう。
「もう少しだけ、マスターと一緒に居たいです…………」
同居しているのだが、そういう理由ではない。
仕事が忙しくなってきたあなた、中々ヴィヴィと一緒に外出して過ごす、というのは難しいのだ。
「んゆっ…………、マスターの手…………やっぱり温かい…………わたしが一番好きな温度…………マスター…………もっと、あなたに甘えちゃうかもしれないです…………んっ、ぅ…………ふふっ♪」
彼女の甘えっぷりこそ、今日という日まで我慢してきた想い。
「マスター、マスター、あなたからは沢山の物を貰いました、あなたと出会えて良かった…………」
生涯の別れではない、同じ家に一緒に帰る。
でも…………
「今日はここまで、なんですよね。また、思い出を…………作りに行きましょう♪ 待っている時間も楽しいかもしれませんし、わたしを頼ってくださってもいいんですよ? マスターの為なら…………お手伝い出来る事であれば、是非とも!」
誰かの為に、何かをしたい。
見返りを求めず…………ちょこっとだけ、あるかもしれないけど、ヴィヴィの握っている手に力が込められる、集合時と同じくらい、手の中に彼女の汗が集っている。
「わたしのならいいかもって…………な、なんだか変態みたいですよマスター…………緊張してばっかりの日です…………でもっ、恋愛はドキドキして、ワクワクして、今のわたしが胸に抱いている想い、消える事はありえませんからっ…………マスター!」
ヴィヴィが飛びついてくる、あなたは力の限り抱きしめてあげる。
早くも次のデートの予定を立てながら、2人して腕時計に表示された時間を確認した。
「皆に怒られちゃうかもですね…………♪」
邪魔をする者達は誰一人も居なかった。
この星降る夜空よりも、綺麗な夜空に更新される、期待に馳せながら深く、もっと深く、指を絡ませながら帰路でも、ヴィヴィは笑顔でいてくれた