フォロワー様の子をお借りさせていただき、執筆致しました。
*甘々にしてと頼まれました。
*オネットちゃんはジュペッタです。
「……んっ、んっ? 寝すぎたかな、昼寝のつもりだったけどこんな時間だ」
本日は休日、カイナシティの講師であるマシロもしっかりと休養を取る。
寝不足や体調不良で教壇に立つなど子供達に失礼であるし、自分自身でも許せなくなってしまう。
それに手持ちのメンバーにも心配をかけたくない、例え業務が忙しく疲労が溜まっていても休める時は休み、回復したらやるべき事をやればいいのだ。
「おーい、オネット? そろそろ起きるよ」
「ん~~……ん、んーにゃ……」
「んにゃって、猫になっちゃったのかオネット?」
「んーにゃ、にゃっ、にゃっ……♪」
(絶対起きてるじゃん、全く俺の彼女は可愛すぎか)
上体を起こそうとしたマシロの左手を握って離さないのは、最古参の手持ちであり恋人であるジュペッタ、オネットが身体を丸めながら寝ている……?
特性はふみんではないが、彼女が中々起きたがらない時はどうすればいいのか?
そんな事は長年の絆が培われているので知り尽くしているものの、わざと彼女の反応を楽しむよう頭の中を切り替える。
まずは頬を突く、肌荒れとは無縁な卵の手触りである頬は指が沈みこんで、決して弾くことはない。
「んっ、んみゅ……みゅっ、みゅんっ……」
次は髪、ポニーテールを撫でてみる。髪は女の命、オネットの仲間ポケモン達であろうと無許可で触れるのはNGであるが、マシロは彼氏なので唯一許せる存在だ。
「はっ……んぅ、んぅ、もっ……んっ、ふふっ……♪」
触れる度にピクピク反応しているオネット、何か口から漏れだそうとしていたがまだ起きてくれないので、マシロはわざとらしく「ヤレヤレ」とジェスチャーを作ってから両手で頬を優しく捕まえる。
「んっ……」
「んっ……♪ っ、ちゅっ……おはよう、マシロくん……目が覚めたよ」
「嘘つけ、ずっと起きてた癖に! おはよう、お姫様」
「あ、ありがとう……素敵な旦那様♪」
そこは王子様じゃないんかいと突っ込みながら、一回り背丈の小さい彼女をハグする。本当は真っ先にハグをしてからキスをしたかった。
それと二人がラブラブなのはカイナどころかホウエン地方全体が認知しているが、まだ籍こそ入れていないので「旦那様」は将来の立ち位置である。
「ちゅっ、ちゅっ、んっ、あっ……マシロくん大好き♪」
近頃のオネットは妙に積極的だ、スイッチさえ入れてあげたらマシロを離さないし今だって、旦那様と連呼しながら指の一本ずつを絡めながら口元から漏れそうな唾液をすすってくれている。
「んくっ、んくっ、ちゅはっ、もっと……ちゅっ、ふぅ、ふっ……ちゅくっ、んぅ……はぁ、マシロくん、大好き……」
何度大好きと言っても足りないらしく、ひとしきりキスを終えたら鼓膜へ直接囁いてくる。
誰かから知識を得たのか、自分で調べたのか、それともナチュラルになのか、一つだけ確かなのはヒカゲが現在の甘々な空間に入ってしまったら、窒息死してしまう事である。幽霊なので死なないが。
「もうちょっと、このままがいいなぁ……」
「甘えん坊だぞオネット」
「マシロくんだから……いーの♪ んっ~……あったかい……」
以前よりも肉感の増したオネットにハグされるのは、控えめに言って最高である。
伴侶になる誓いを立てた女の覚悟がそうさせたのか、女性ホルモンがドバドバに放出されている。あるべく場所には肉が盛られ、必要のない場所には盛られない、カタラ曰く「都合のいいくらいズルい体型」
「もうちょっと、もうちょっと……」
夕飯の買い物に出かけようとマシロは誘っているのだが、甘えん坊パワーを炸裂させて引っ付いて離れないオネットは、馬乗りになってからマシロの身体を抑えつけるように抱きしめる。
ここまでの行為をやらかしておいて、オネットの顔は真っ赤である。積極性を得ても恥じらいは消えていない、可愛らしい彼女なのだ。
糖分過多になった部屋は恐らく、ぺスタが入ってきたら2時間くらいだけ甘いものが喉を通らなくなるだろう。
結局、もうちょっとが続いて一時間も経過した。
夕方になりかけてしまったがこれくらいのんびりする日だってあってもいいと、大好きな彼女にして将来のお嫁さんを撫でながらマシロは思った。
「充電できた?」
「うん……バッチリ!」
満足したようで微笑んでくれるオネット、思いっきり甘える事で彼女の疲労は取れるのだ。
「買い物が終わったらまたギュッてしていい?」
「もひょっ、もちろんだよっ!!」
どちらも赤くなりながらだが、如何に満足してももっともっとと、求めてしまいたくなるのが円滑に順路を辿る恋人というものだ。
マシロから予約が入って興奮するオネットは舌を噛んでしまい、「おいおい」と吹き出すマシロはそんな彼女が愛しいのだ。
「ああ、そのボールはね……」
二人して上着を着ている最中、ふと数々のトロフィーや賞状の飾られてあるディスプレイの最も目立たぬ場所へ配置されていた、二つのモンスターボールが目に入ったオネット。
一つは何てことはない自分のボールである。それなりに傷が付いているが彼女は交換するのを拒否している、理由は思い出が詰まっているからだ。
「このボールに入る子は決まっているような気がしてね、よくわからないんだけどここに置きたくなったんだ」
「? そうなんだ」
空のボールを手に取ったマシロ、自分でも何故誰も登録されていないモンスターボールを置いたのかは分かっていない。
いつ置いたのかも分からない、部屋掃除の度に目に入るが退かそうとは思わなかった、オネットのボールの隣でないとダメな気がしてならないのだ。
不思議な感覚に陥りながらも、マシロは元の位置にそっとボールを戻してから、玄関へオネットと手を繋ぎながら向かいだした。
*
それは夢、それは泡沫、それは幻。
とある虚ろぎの平行世界、たった一人だけの住人である「彼女」は、マシロとオネットがイチャ付く光景をずっと、ずっと瞬きもせずに眺めていた。
「楽しそう、あぁ、楽しそう」
暗黒の渦巻を纏う彼女は呟く、誰も住人などいない事など知っていてもなお呟く、独り言を多くさせて自身を保ち続けている、イカレた世界で精神を壊さない為に生み出したサバイバル方法なのだ。
……いや、とっくに彼女は壊れてしまっているのかもしれない、誰にも分からない。
「お姉ちゃん、羨ましい……誰かと触れあえる、言葉を投げたら返してくれる相手がいる、求めてくれる誰かが存在している、幸せ……幸せだねお姉ちゃん……嬉しい、嬉しいけど……ちょっとだけ、憎いよ」
姉は普通に転生したのに何で自分は?
何度も何度も何度も、暇で暇で仕方のないたった一人だけの世界で彼女は怒り、泣いて、大好きな姉の名を呼び捨てにして絶望を虚無に叩きこんだのか、分からない。
こんなの-夢の管理者-になるのならば、暖かい生前の記憶などいっそ蒸発して欲しかった。
神サマなど信じていないが、もしも存在するのならば意地悪で趣味の悪い神サマなのだろう。
彼女、悪夢を見せると神話に語り継がれる恐ろしいポケモン、ダークライとなってしまったマリオンは暗黒の渦巻に映る新たなる光景に、「えっ……」と小さく声を漏らした。
「それは……私の、私のボール……」
死んだ自分の事なんて忘れてしまって欲しいのに、彼と彼女は生前にマリオンが収まっていたボールを静かに、不思議そうに見渡していた。
「あぁ、楽しかった、楽しかったなぁ……」
涙など枯れてしまっているのに、溢れて溢れて止められない。
自分はまだ狂っていないと認識しながらどれくらいの刻が経過したのだろう、孤独の化身になってしまったマリオンは再び渦巻の中へ視線を落とす。
「寝てる、お姉ちゃん……幸せだね、お姉ちゃん……」
誰もいない耐えがたい孤独に耐えてきた、唯一マリオンが安息出来るのは眠る時、夢という都合のいい世界へ逃げる時だけだ。
「そして起きたら私はまた絶望するの、夢、なんて儚いのって……広くて、脆い、私まで壊れちゃいそう、ここまで耐えて私、すごい……?」
聞こえるハズの無いオネットへ囁く、マシロや手持ち達と楽しく過ごす夢を見ているのだろう、現実だけでなく夢の中ですら幸せな姉へしたくもない嫉妬をする。
「夢の中でならお姉ちゃんにも会えるのにっ……!」
渦巻の中で寝息を立てている姉とは実際に会えない。ただ夢、あの頃の思い出の中でありながら、マリオンが生きていたらのifを描いた都合のいい物語の中でだけ、彼女は姉の体温を感じ取れる。
「それも儚く散ってしまうの、起きてしまえば私の夢は終わる、私、戻りたい……あの頃に戻りたいよお姉ちゃん……戻れないなら――」
マリオンは気が付いてしまった。
「――夢を現実、現実を夢にしちゃえばいい、私の力なら出来るよね? やっちゃおう、やっちゃえ、だって、会いたい、お姉ちゃんに……お姉ちゃんのオトモダチにも会いたい、招待しちゃおう、私の世界に……だってだって私の力、その為に与えられたんでしょう……? 使われたくないならこんな力……与えなければいいだけ……」
ダークライへと転生させた全てに向けた発言であった。
なまじ強大な力を得てしまったので、使用しなければ勿体ない話だ。そして最大限に力を振るえば自分には「ソレ」が出来てしまえる。
「夢じゃない、夢だけどホンモノのお姉ちゃんに会える、待っていてね、一緒に楽しい夢という現実の中で……オネットお姉ちゃん」
マリオンは笑い出した、笑ったのはいつ以来であろうか。
生前がそうでったように、極めて常識的でお淑やかな笑み、自然と零れた笑顔、普通の笑い方がまだ出来たんだとマリオンは自身の身体を抱きしめながら安堵した。
誰も存在しない夢の世界では、暗黒を纏わせる彼女の喜びを言語化させた笑い声だけが響き渡っていた。
冒頭のいちゃつきは許可さえあれば絶対最後まで書いてました