ポケモン擬人化小説②

 フォロワーさんからお借りしたよ、ヤヨイさんはマフォクシーだよ。

 

 プリズムタワー、及びザイデンが引き起こした事件から一ヶ月が経過した。

 

 キサラギとリッカは近場まで買い出しに行っているので、カロススクワッドの事務所内にはヤヨイとノエル、二人だけだ。

 

「私とアンタが二人だけって珍しくないかしら?」

 

「そうかしら、共に任務をこなした記憶が何度かあるのだけれど」

 

 本日はオフの日ではないが依頼は来ない、まぁ偶には暇な日があってもいいだろう、事件解決以降は依頼が爆撃のように降り注いでくれたのだから。

 

 ようするに承った全部の依頼をこなしたのである。

 

 魔術の練習をしていたが飽きてきたヤヨイ、過去にカロススクワッドが解決した事件、依頼の資料を読み通していたノエル。

 

 ヤヨイはまだノエルを完全に許してはいない、ふとした瞬間に出る言葉にトゲを含ませている。

 

 その度にリッカにリッカに指摘されているが、ノエル本人は特に気にしていないようだ、簡単に許されるとは彼女も思っていないのだから。

 

「何をしているのかしら?」

 

「別に、3000歳以上のおばあさまを観察しているだけよ」

 

 女性に対する言葉としてはあまりに不適説だが、実際ノエルは3000歳をとうに超えているので否定はできない。

 

 他のポケモンからすれば自分はバケモノ、自覚があり何度迫害されてきたかなど忘れてしまっている。

 

「そお? こんな老体で良ければ日が暮れるまで見てちょうだいな」

 

(老体ってアンタ、凄い綺麗な肌してるんですけど……)

 

 正直、ヤヨイも言いたくて言ったわけではない。

 

 二人きりの空間でとても居心地が悪い、自分も外へ行ってしまおうと考えたがそれは出来ないと、椅子に腰かけて目の前の黒いゲッコウガを一文字口のまま睨んでいる。

 

 ちなみにこれも睨みたくて睨んでいるのではない、勝手にそういう顔つきになってしまうのだ、ヤヨイだって緊張する時はある。

 

(もう少しだけでもノエルさんと仲良くなれたらいいのだけど)

 

 お気づきと思われるが、ヤヨイはノエルの全てはまだ許せないのだが、目が合ったらピリピリとした雰囲気を作ってしまう自分の行いを見直したいと思っているし、許せなくとも皆と同じくらいには会話含めてやり取りを行えるようになりたいと悩んでいた。

 

 なにせ同じ事務所に暮らしている「仲間」となったのだ、挨拶するのですら気を使ったり陰湿な雰囲気を(ヤヨイだけ)作り上げてしまったり、疲れてしまっているのだ。

 

(私は許してないと言っているのに、歳の甲なのかしら、心が広いわ……)

 

 目をそらしたら負け、な雰囲気をまた作ってしまっているヤヨイ。こんな事を続けてしまうから疲れてしまう。

 

 いっそ仲良く握手が出来てしまえば楽だろうが、そのゴールに至るまでにはそんなに簡単ではない。彼女のプライドやらの問題もあったりはするが。

 

「ところで」

 

 ノエルは突然話を切り出した。

 

 考え事で夢中だったヤヨイは身構える事が出来ておらず、ビクッと震えながら反射的に杖を握りしめてしまった。

 

「私から切り出すのもどうかと思うのだけれど、同じ事務所に所属する仲間になったのだから、もう少し距離を詰める事を許して貰えないかしら?」

 

「……アンタがそれ言う?」

 

「許してとは言ってない、少なくとも仕事中もギスギスしたままだと支障が出ているもの」

 

 誠に正論であった。

 

 結果的に上手く任務をこなせてはいるが、ヤヨイはノエルの意見には真っ先に反論する。

 

 それが原因で皆の足を引っ張ってしまった案件もあった、ノエルへの見解を少しでも変えられたらそんな事にはならなかった……と、当時を振り返って思う。

 

「これからも私はカロススクワッドのお世話になるわ、何度もキサラギ、貴女と一緒に任務へ入る事だってあるでしょう。その時だけでもいいから信頼のおけるバディになってくれないかしら?」

 

 どんな任務も二人きりになる訳ではない、可能性としては寧ろ低い。……が、これまでだって何度かあった、これからだって数えきれないくらいノエルと二人で任務に向かわなければいけない場面もあるだろう。

 

「私への憎しみは隠さなくてもいいわ、でもお仕事中は……ね?」

 

「新入りの癖にアンタプロ意識高いじゃない……そうね、私もマズイとは思っていたから丁度いいわ。ただしっ! 信頼するのは任務中だけよ?」

 

 渋々といった面持ちで同意するヤヨイ、ノエルを本当に許せる時は暫く来ないだろうが、任務中だけでもわだかまりが解けるのはヤヨイとしてもありがたかった。

 

(一応仲間だからね、普通にいけるのなら普通にしたいし)

 

 キサラギに免じてと付け加えて承諾した。今後は少なくとも任務中だけは二人の距離感は縮まる事だろう。

 

「あとこれ、お近づきのしるしになんだけれど」

 

 懐から取り出したのは油揚げであった。しかも高額品でヤヨイも中々手に入れられないブランドの……

 

「ッッ!!?」

 

「ご飯の時間が近づいているけれど、どうかしら? お一つ」

 

「……もっ貰っておくわ! 私が食べた方が油揚げも喜ぶし!」

 

 やはりと言うか、ノエルにも好物がバレていた。他の物であったなら目もくれなかったかもしれないが、油揚げだけは別だ。

 

 いただいたからと言って簡単に許せる筈はない、ノエルだってそんなつもりはないかもしれないが。

 

(美味しい! 美味しい美味しい美味しいッ!)

 

 3000年以上も生きているのだ、17歳の少女の扱い方など心得ている。ヤヨイだけでなくカロススクワッドに貢献すると言葉だけでなく、形でも示す為に用意していたのだ。

 

 その晩、ヤヨイだけが夕食を殆ど食べられなかったらしいが、何故だか満腹そうな顔つきをしており率先して、ノエルの食器を洗っていた姿が目撃されたそうな。